病気がもたらす「生き方の再構築」…患者・家族・医療者の間にあるもの

~飯村隆志さんをお招きして~

<第25回「廣器会」講演会レポート>

開催日時 2026年4月9日(木)18:30~20:00(懇親会 20:00~22:00)

開催場所 (株)コーチビジネス研究所 飯田橋セミナールーム + オンライン

第25回の廣器会は、ローテックメディカルジャパン株式会社代表取締役の飯村隆志さんをお迎えしています。飯村さんの第一声の前に、スライド資料の冒頭ページがディスプレイに映し出されています。そのタイトルは、「がん患者から起業家へ・・・体が教えてくれた病気にならない生き方…」です。

シリアスなテーマであることが伝わってきます。参加者それぞれが、飯村さんの生き方を想像しつつ、講演がスタートしました。
最初にプロフィールを紹介させていただきます。

<飯村さんのプロフィール>

  飯村 隆志

(いいむらたかし)
ローテックメディカルジャパン株式会社 代表取締役
NPO法人健康サポーターJAPAN 代表理事
社会福祉法人龍鳳 理事
2005年6月  大手医療機器メーカーで医療機器の開発を担当
2017年6月  NPO法人健康サポーターJAPAN設立
2017年10月 医療ドリームプランプレゼンテーション主催
2020年1月   大手医療機器メーカーで商品開発を担当
2024年4月  ローテックメディカルジャパン創業
2025年3月  大手医療機器メーカーを退職

飯村さんの第一声は、とても爽やか! 重いテーマでありながら、飯村さんはユーモアを交えながら、聴き手が自然と耳を傾ける空気をつくってくれます。早々に、「飯村さんの世界」が会場に広がります。

さて、今回のレポートですが、飯村さんの体験を「物語」として dramatizeするというより、飯村さんの言葉から伝わってくる本質のテーマ(心理の構造・意思決定のプロセス・支援のあり方)にフォーカスし、綴ってみようと思います。

1. 病気との出会い──“偶然”が人生を変える

「最初にがんと出会ったのは、 医療機器メーカーに転職し、超音波エコーの開発を担当したことがきっかけでした」と、飯村さんは語ります。27歳の時でした。

新人の場合、教育の過程で自分の身体に機器を試し使いするのが慣例とのことで、教科書を見ながら首にプローブを当てます。そのとき、 「首に何かある・・・」 という違和感を飯村さんは覚えます。その後の検査で、甲状腺に腫瘍があることが判明。 当初は良性と診断され、2年間の経過観察となります。

しかし腫瘍は徐々に大きくなり、

  • 仰向けで息苦しい
  • 飲み込みに違和感
  • 目で見てもわかるほどの膨らみ

といった症状が出てきたとのこと。良性であっても不安は募ります。飯村さんは手術を希望し、転院を経て、ようやく手術が決まります。ところが、手術前日の説明で医師から突然こう告げられます。

この一言が、飯村さんの人生を大きく揺さぶることになります。

「多分がんだね」

2. 「大丈夫」は大丈夫ではない─患者心理の構造

がんと告げられた瞬間、飯村さんは「頭が真っ白になった」と語ります。 その夜から翌朝までの記憶がほとんどないほどの衝撃を受けたと…。しかし翌朝、病室に駆けつけた奥様の姿を見たとき、 飯村さんの口から出た言葉は、 「大丈夫、安心して」 でした。飯村さんは振り返ります。「男は見栄を張るんですね。妻を悲しませたくないと、とっさに“大丈夫”と言ってしまった」。

参加者一人ひとりは、「自分の場合はどうだろう?」と、想像したでしょう。筆者の場合は…おそらく飯村さんのように「妻を安心させるための言葉」は出てこないのでは、とシミュレーションしました。飯村さんは強いですね。

●患者の「大丈夫」は、本当の大丈夫ではない

  • 家族を心配させたくない
  • 強くありたい
  • 弱さを見せたくない

こうした思いが「患者の本音を覆い隠す」、と。

●家族もまた「大丈夫」を言う

奥様もまた、 「大丈夫なの?」 と訊きながら、本音は不安でいっぱいです。しかし、互いに相手を思いやるがゆえに、 本音のやりとりが起こることなく、すれ違いが生まれます。飯村さんは、この構造を 「誰も悪くないすれ違い」 と表現しました。飯村さんは深い! 会場に「納得の想い」が共有されます。

3. 二度目のがん──“蓋をした生き方”の代償

甲状腺がんの手術後、飯村さんは「がんを忘れようと」働き続けます。

  • 寝ない
  • タクシー帰り
  • 朝からまた仕事
  • 誰よりも結果を出す

その背景には、「周囲の言葉があった」と振り返ります。「がんを経験したのに頑張ったね」 「がんになったのに、こんな成果を出したんだ」、などなど。善意であっても、「がんになったのに」、という接頭語がつく。 その言葉を受けて、必死に働き続けたと飯村さんは分析します。

しかし、5年後── 肺がんが見つかるのです。0.7mmという極めて早期の発見でしたが、 肺がんの生存率データを見ると、 「死」が現実味を帯びて迫ってきます。「甲状腺がんのときは“なんとか消化できた”にもかかわらず、 肺がんでは心が崩れそうになった…」と、その時の心の動きを、飯村さんは語ってくれました。

飯村さんは言葉をつなぎます。 「がんを忘れようとする生き方そのものが、心身に負荷をかけていた」、と。

4. 家族との“本音の対話”が生まれるまで

肺がんの宣告後、飯村さんは再び「大丈夫」と言ってしまいます。 しかし、心の中は不安でいっぱい。そんな中、手術3日前に参加した「闘病経験を語る会」での、 ある夫婦の話が心に留まります。

  • 互いに泣きながら本音を伝え合う
  • 言いたいことを言い合う
  • 一緒に向き合う

その姿を見て、飯村さんは 「帰ったら妻に本音を話そう」 と決めるのですね。

家に帰ると、本棚に肺がんの本が置かれ、付箋がびっしり。 奥様もまた、一人で不安と向き合っていたことに気づきます。このようなプロセスを経て、本音を伝え合うことができるようになった、としみじみと言葉にされる飯村さんです。

「もっと早く頼ればよかった…」は、患者と家族の関係における“本音の壁”の象徴であることを飯村さんは指摘します。

5. 医療者との関係──意思決定の難しさ

肺がんの治療方針を決める際、医師からこう言われます。

「多分がんです。手術するかどうかは決めてください。 3ヶ月後どうなっているかは…何とも言えません」

奥様は、 「10年後も生きている可能性が最も高い選択をしてほしい」 と、飯村さん告げます。患者本人の「今の恐怖」と、 家族の「未来への願い」。 この二つが交わることで、意思決定が前に進んでいくということを。

これは、現代医療における 「患者の自己決定」 の象徴的な場面です。しかし、患者側からすると…「死にたくない」「痛いのは嫌だ」「後遺症も心配」、でも「決めなければならない」、という非常に難しい状況に置かれる。ここで、「家族の存在が大きな意味を持つ」と、飯村さんは体験からの学びを語ります。

6. 患者が“わがまま”を言うことの大切さ

飯村さんは、手術方法について医師に多くの要望を伝えました。

  • 区域切除の臨床研究に参加したい
  • 手術中に迅速診断をしてほしい
  • 内視鏡手術にしてほしい

「患者側から“こうしたい”と言うことが大事なんです」と、飯村さんは訴えます。明快な意志を伴う言葉は、医療チームを動かします。当時としては珍しい希望も含め、 医師はチームで検討し、すべて受け入れてくれたのですね。

飯村さんは言います。「医療者は、患者の生き方に寄り添う強い味方。 その前提があるからこそ、 患者の意思表示が治療の質を高める」、ということを。

7. 病気は“身体からのサイン”
──生き方の再構築

肺がん手術後も、飯村さんは再発の恐怖に悩まされるのです。そのようなとき、メンターからこう言われます。

「病気は、身体が自分に何かを知らせるサインなんですよ」

この言葉が、飯村さんの生き方を大きく変えます。甲状腺がんのとき、 “なかったこと”にして働き続けた自分。 その生き方を変えるために、 身体がもう一度サインを送ってくれたのではないか──。

8. 病気が教えてくれた3つのこと

講演の最後に、飯村さんは次の3点をまとめてくれました。

患者の「大丈夫」は大丈夫ではない

本音を言えない構造がある。 だからこそ、周囲は“言葉の裏”を丁寧に受け取る必要がある。

患者一人で治療方針を決めるのは難しい

家族や支援者が、意思決定のプロセスに関わることが重要。

思いが交わらないのは、誰も悪くない

患者も家族も、互いを思うがゆえに本音が言えない。 その構造を理解することが、支援の第一歩。

9. 支援者としての示唆─“本音の場”をつくる

飯村さんの講演は、がんの体験談であると同時に、 「本音が交わらない構造」をどう解きほぐすか という、支援者にとって重要なテーマを含んでいました。

  • 患者の本音
  • 家族の本音
  • 医療者の本音

これらは、同じ方向を向いているようで、 実際には微妙にずれている。支援者の役割は、 その“ずれ”を責めるのではなく、理解し、橋渡しすること。

飯村さんは、この思いを、「ローテックメディカルジャパン」を通じて、自らが支援者として精力的に活動されています。「患者」「患者の家族」「医療者」の三者をつなぐ、日本ではまだまだ認知されていない支援事業に挑戦するイノベーターです。

スライドのおわりには、こう記されていました。

がん患者から起業家になって
病気になって自分の生きる意味を知りました
自分の体がとんでもなく面倒で、人生に介入してくれる存在と知りました
「〇〇しなければならない」という呪縛から解放され
大好きな医療、患者のために人生の残りの時間を使います
我々の力は微力ですが
想いをともにする仲間と一緒に
先人が繋いでくれた健康に生きる仕組みを子供たちに残します

■ おわりに

飯村さんの講演は、がんという重いテーマを扱いながら、 決して悲壮感に寄ることなく、 むしろ「生き方を見つめ直す静かな機会」を与えてくれるものでした。

病気は、誰にとっても避けたいもの。 しかし、飯村さんの言葉を借りれば、 「身体が何かを知らせるサイン」 ということです。そのサインをどう受け取り、 どう生き方を再構築していくのか。 そこにこそ、会社経営者(結局のところ、私たちは「支援者」ですから)としての学ぶべき示唆があると感じました。

飯村隆志さん、ありがとうございました!

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次回廣器会は・・・

みんなで考えよう「強い組織をつくる経営者のあり方」
-廣器会#26-

中村智昭

■プロフィール

中村智昭(なかむらともあき/トモさん)

廣器会代表

株式会社コーチビジネス研究所取締役

アパレル企業 1.5年
イオングループ企業 33年(役員で退任)
人事部長のときにコーチングに出会い
組織へ導入して風土改革、リーダー育成を推進

■会合の内容

本会では、これらの問いに対して
“答え”をお伝えすることはありません。
また、何か特定の情報や答えを示す会でもありません。

むしろ、答えが簡単に出ないテーマだからこそ、
経営者同士の対話を通じて、自らの考えを深めていく場です。

売上や成果といった表面的な「強さ」ではなく、
組織の本質的な強さとは何か。
そして、それを生み出す経営者の在り方とは何か。

他者との対話の中で揺さぶられ、
自分の中にある前提や思い込みに気づき、
新たな視点を持ち帰っていただきます。

知識やノウハウを学ぶ場ではなく、
“問いを持ち帰る場”です。

■プログラム(予定)

  • 本日の目的共有
  • 強い組織とは何か(個人内省)
  • グループ対話①(強い組織の定義)
  • 全体共有(定義の違い・ズレの可視化)
  • 深める問い(強さの本質を問い直す)
  • グループ対話②(組織はなぜ生まれるのか)
  • 経営者のあり方への接続
  • 自分自身への問い(これからどう在るか)
  • クロージング(持ち帰り)

※上記プログラムは変更となる場合がございます。

Information

■ご参加にあたって(重要)

本会は対話を中心に進行します。
オンライン参加の方は、以下の点にご協力をお願いいたします。

・耳だけ参加はご遠慮ください
・必ずカメラをオンにしてご参加ください
・ワークを行うため、パソコンからご参加ください

■開催日時
2026年5月14日(木)18:30-20:00

■開催方法
リアル会場開催&オンライン同時開催

■会場
株式会社コーチビジネス研究所
東京都千代田区富士見1-3-11 富士見デュープレックスビズ702号室

■参加費 無料

※ 学びの会合終了後の懇親会を開催予定です。
懇親会は、3500円~4000円の参加費となります。

■お申込み
こちらのPeatixよりお願いします。

第26回学びの会合 (経営者のための廣器会)

https://peatix.com/event/4967960

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レポーター紹介

坂本 樹志

株式会社コーチビジネス研究所 顧問 CBL認定コーチ 中小企業診断士
広島県出身。大学卒業後、大手化粧品会社に入社。財務、商品企画開発、販売会社代表取締役、新規事業開発、中国上海・北京駐在、独資2社設立し総経理等を歴任。その後CBL認定コーチとなり、エグゼクティブコーチとして活動開始。『カウンセリング&コーチング クイックマスター(同友館)』『格闘するコーチング(かんき出版)』など著書・執筆多数

WEB構成

水野 昌彦

アイデアルブランズLLC 代表 ブランド・デザイナー 中小企業アドバイザー
美大卒業後プリンター・電子機器メーカー、独立デザイン事務所を経て自動車メーカーデザイン部でカーデザインに従事、エンブレムデザイン全般担当を契機としてブランディングに深く関与。ブランド体系構築をリーディング。2021年独立・法人化、代表に就任。「かんがえ方のデザイン」を提唱し中小企業のブランド・デザイン振興を支援している。

撮影

Jin-hitomi

インフラ系会社の購買部門で契約業務の他、経理・総務を歴任。日商簿記2級、ビジネス法務2級
パラレルキャリアで人物写真撮影(イベント、スナップ、スタジオ)、西洋占星術、ダンス(ヒップホップ、ロックダンス)など★魂の煌めきを照らす仕事★で元気とパワーを届けている。

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- 了 -
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