~中村主宰によるワークショップ回です~
<第26回「廣器会」講演会レポート>

開催日時 2026年5月14日(木)18:30~20:00(懇親会 20:00~22:00)
開催場所 (株)コーチビジネス研究所 飯田橋セミナールーム + オンライン
飯田橋のセミナールームに、いつものように経営者や組織支援者たちが集います。リアル会場とオンライン、それぞれに画面を開いた参加者の顔が並ぶ、今夜のテーマは、
「強い組織をつくる経営者のあり方とは何か」
……ただしこの日は、例によって”答え”がどこかに用意されているわけではありません。
今回の廣器会は、従来の「講師が話す」形式からさらに一歩踏み込んだ、探究型の対話の場として設計されました。参加者一人ひとりが問いを持ち寄り、グループで揉み、定義を紡いでいく。そのプロセスそのものが「学び」となる夜です。


<3部構成の登壇者>
中村 智昭
(なかむらともあき/トモさん)
廣器会代表
株式会社コーチビジネス研究所取締役
アパレル企業 1.5年
イオングループ企業 33年(役員で退任)
人事部長のときにコーチングに出会い
組織へ導入して風土改革、リーダー育成を推進
伊藤 義訓
ITOアイ工房合同会社代表
元アサヒビールマーケティング部長
アサヒグループホールディングス顧問
生ジョッキ缶導入の責任者、対人支援業務で法人化
水野 昌彦
アイデアルブランズLLC 代表 ブランド・デザイナー 中小企業アドバイザー
自動車メーカーでカーデザイナーを経て独立、中小企業のブランド・デザイン振興を支援。
第一部:短歌と経営の、意外な接点
冒頭、まず水野さんが壇上に立ちます。

「本当は今日はトモさん(中村さん)の回なんですが、無理やり押し込まさせていただきました」
笑いが起きる中、水野氏が語り始めたのは「社長万葉集」の話でした。
きっかけは、入谷の短歌バー「銀狐」で開催された講義会。小川優子さん1という文芸家から短歌の世界に触れたことで、「経営者たちの万葉集をつくろう」という流れが生まれた。そこから6ヶ月間の特訓を経て、ついに作品集が誕生した、というのです。

「私も初心者なので、本来こんなことを言う筋合いはないんですが……受け売り、全くの受け売りで」
そう断りながらも、水野さんの話は小気味よく展開していきます。
短歌とは何か?
五七五七七の31音からなる、自己の表現を出発点とする日本独自の定型詩。俳句が「外界の景色を描く」のに対して、短歌は「内面を詠む」もの。自分の心を主体として読む。それが短歌の本質だと言います。

俳句と短歌の違いがよく問われますが、水野さんは端的にこう整理します。

「俳句は客観、短歌は内面。俳句には季語がある、短歌にはない。そして——短歌は、誰にでも作れる」
そして、この話が、なぜ経営者の会で語られているのか。水野さんはここで、ある言葉を提示します。


「研ぎ澄まされた言の葉に、魂が宿る」
ビジョン、ミッション、バリュー、パーパス……経営者が日々格闘するこれらの言葉も、突き詰めれば「どう魂を宿すか」の問いだ、と。

「想いをどう言葉にするのか。どう凝縮して伝えるのか。短歌ってそういうことなんだって、教わって初めて思いました」
そして今日、限定3冊の「社長万葉集」が会場に並びました。廣器会メンバーたちが6ヶ月かけて紡いだ、言葉の結晶です。

第二部:「知識を教わる場」から「共に定義する場」へ
水野さんのトークを引き継ぐように、中村智昭さんがマイクを持ちます。

「今日はやり方を、ちょっと変えてみます」
いつも通りのスライドが、ない。資料が、ない!

「実は何もスライドを用意していないんですよ」
会場がざわつきます。ところが中村さんは涼しい顔で、目の前のノートパソコンに向かい、その場でAIにプロンプトを打ち込み始めます。Gammaというプレゼンツールを使ってリアルタイムにスライドを生成しながら、今夜の問いを立てていきます。

「これだけ社会的に活躍している経営者の方や支援者が集まっているので、その知を形にしていきたい。今日は”実践知”を持ち寄る場にしたい」
単なるセミナーではなく、実践知を共同研究する場。中村さんはそう宣言します。
そして今夜の問いが映し出されました。
——「強い組織をつくる経営者のあり方とは何か」

「答えを持っている人が一方的に話すのもいい。でも今夜は、何も用意しないで、皆さんから引き出してみる。そういう進め方もあるんだということを、一緒に体験してみたいと思います」
参加者はグループに分かれ、まず個人で5分、続いてグループで15分、「強い組織とはどのような組織か」を考え、定義を絞り込んでいきます。オンライン参加の3名もそれぞれ画面越しに顔を寄せ合い、言葉を探します。


制限時間が終わり、各チームが順番に発表へ。
■ グループ対話――各チームの「強い組織」定義
◎ レジリエンスチーム
最初に手を挙げたのはレジリエンスチームです。

「全体で共感できる想いや基準があり、何事があっても心折れず、しなやかに持続成長できる組織」

中村さんが「レジリエンス」という言葉が生まれた背景を問うと、チームメンバーから率直な言葉が返ってきます。

「コロナという大変な時期があって、そこから元に戻るのが目的じゃなくて、それをバネにして進化していけるような組織——それができるのかどうかって話でした」
さらに、こんな視点が続きます。

「トップがトップダウンで俺がこうだからこうだ、という進め方だと、やっぱりレジリエンスは生まれにくい。グレーゾーンを、白か黒か自分で判断しながら、杓子定規じゃなく、しなやかに、でも倒れないみたいな感じのところを持って」
そして、印象的な発言がひとつ。

「経営者が完璧なほど、その組織って実は弱い、と最近思っていて。足りないところを下に見せられる経営者の方が、結果として組織全体が強くなっていくんじゃないかな」
「ヴァルナラビリティ」2 ——弱さを正直に見せられるリーダーシップの話が、会場の空気を変えていきます。自分の弱みを開示し、「ここ足りないよ、誰か補ってくれよ」と言える経営者。強がってすべてを引き受けようとするリーダーより、そういう人のいる組織の方が結果的に強くなる、というのです。
ある参加者が、かつて先輩から言われた言葉を明かします。

「お前の最大の弱点は、バカなふりができないことだ——と言われまして。若かった私は反論したんですが、今になってようやくわかる気がします。バカなふりをするって、本当に難しいんですよ。ちゃんとわかっていないと、できない。だから本当にバカじゃダメなんです」

会場に、笑いと、深い頷きが同時に広がります。
◎ 土壌づくりチーム
次に、「土壌」という比喩を軸に据えたチームが発表します。

「組織は、成果という”実”を求められる。でも実だけをつけようとすると短期的にしかならない。良い実をつけるためには、まず土壌が必要だ、というところに落ち着きました」

土壌とは何か——理念、価値観、心理的安全性、リーダーシップ。チームで洗い出していくと、それらがすべて「根っこ」にあたる要素として浮かび上がったと言います。
「MVVがあって、そこに帰りどころがある中で、それを逸脱した優秀な幹部がいて、でも何も指導されなかったら組織はどうなるか」と中村さんが問いかけると、すぐに答えが返ってきます。

「バラバラになります」
「業績を上げているからとか、あの人がいなくなったらどうのこうのって言い訳で、指導しない。そういうことが原因でいろんな組織が崩れていくのを見てきました」
理念は、作って終わりではない——「ずっとガムみたいに噛んでいないといけない」という言葉が出て、会場から静かな共感の空気が流れます。時代が変われば、かつて正しかったものが正しくなくなることもある。だから理念も「立ち止まって考え直す」姿勢が必要だ、と。
◎ オンラインチーム(侍ジャパン)
画面の向こうからマイクを持ったのは、Nさんです。

「私たちのチームは、一言に集約しました。——『優勝すると公言している、今の侍ジャパンだ』」
会場から、おおっ、という声が上がります。
要素を並べれば、ゴールの共有、自分の役割の明確化、ビジョン・ミッション、パーパスへの理解と共感、自己実現、心理的安全性、そして自律性。それらが全部揃ったとき、何を象徴するか。

「KBさんが、じゃあどう一言にまとめるの、ってなって、それがもう侍ジャパンそのものだよって言ったんです」
KBさんはここで、Jリーグの話を展開します。

「Jリーグは、多分、世界最強の人材育成システムだと僕は本当に思っていて。30年前にJリーグが創設された時、川淵さんが立てた『百年構想』という長期ビジョン。それを着実に積み重ねてきた結果が、今の代表チームなんだと思います」
そして、こんな言葉が続きます。

「Jリーグで生き残る選手は、傾聴力がめちゃくちゃ高いんです」
この言葉は、会場の経営者たちの胸にも刺さったはずです。傾聴力——チームの中で自分を活かし、相手を活かすための根幹にある力。強い組織の条件は、サッカーのピッチ上でも、経営の現場でも、変わらないのかもしれません。
KOさんが補足します。

「120%の力を個々が発揮できる、という言葉もすごく印象に残りました。100%じゃなくて120%。チームになった時に、さらに相乗効果が生まれる」
◎ レゾナンス・理念サプライチーム
「チーム名は……レゾナンス・理念サプライ、です」
「リネンサプライじゃないですよ」と笑いを挟みながら、水野さんが続けます。レゾナンスは「共鳴」、理念サプライは「理念を提供する人たち」という意味を込めたといいます。
定義は、こう絞られました。

「刻々と変化する社会環境に順応しながら、個々人が自主独立の精神をもって自発的に行動し、一つの理念への共感のもと、コミュニケーションをとりながら、一つの目標に向かって進んでいく組織」
「ホンダの経営理念みたいですね」と、中村さんのチャチャに「違います!」3と返し、また笑い。
このチームがユニークだったのは、「多様性」への視点です。

「違和感を持つ人、抵抗勢力、少数派、異論。それを排除するのではなく、未来の可能性として扱う重要性を、私たちは話し合いました」

環境が変われば、今日の正解が明日の正解ではなくなる。だからこそ、圧倒的に唯一の正解を絶対視する文化は「逆に危うい」。
「イノベーションは辺境から生まれる」という言葉が出ます。窓際に追いやられた人が、実は次の時代の芽を育てているかもしれない。そういう人を組織の中に”残しておく”包容力こそが、長い目で見れば強さにつながる——という、深い視点でした。
◎ BE:FIRSTチーム と BE:FIRSTの精神
最後に発表したのは、 BE:FIRSTという日本のダンス&ボーカルグループを組織の象徴として取り上げたチームです。

「BE:FIRSTが所属している事務所は『才能を殺さないために』 ”クオリティ・クリエイティブ・アーティシズムストファースト”を掲げており、同業・異業からスタッフの転職もあり、所属を希望するアーティスト志望の若者も多いです」
「求心力」という言葉が出ます。スターバックスコーヒーの例が挙がりました。飲食業界は有効求人倍率が5倍、10倍とも言われる人手不足の業界。それなのに「あそこで働きたい」と思わせる組織がある。その差はどこから来るのか。

「憧れるというか、あそこの一員になりたいという夢や誇りが、組織の中にあるかどうか。それがビジョンとして機能しているかどうかだと思います」
■ 廣器会として見えてきた「強い組織」の輪郭
各チームの発表が出揃った時、中村さんはこう言います。

「言葉はそれぞれ違うんですけど、言っていることは同じですね」
確かに、チームによって表現は様々でした。レジリエンス、土壌、侍ジャパン、共鳴と理念、求心力——。しかし根幹にあるものは、驚くほど共通していました。
この日の対話を通して浮かび上がった「強い組織」の輪郭は、こういうものです。
共通の理念や目的に共感しながら、
一人ひとりが自律的に動き、変化や困難にしなやかに適応し続け、共に成長していける組織
そこには次のような要素が重なっていました——理念の共有、心理的安全性、自律性、役割の明確さ、共感と対話、多様性への包容、失敗から学ぶ文化、変化への適応力、そして弱さを見せられるリーダーシップ。
そして、もう一つ。強い組織は「人が辞めない」組織でもあるが、辞めないのは義務からではなく、共感があるからだ、という話が出ていました。「2年後もここにいるだろうか」と思わせる何かが、組織の中にあるかどうか——。

第三部:経営者アセスメントという試み
後半は、伊藤義訓さんが新たな取り組みを共有します。

「偶然なんですけども、私はずっと経営者のあるべき姿って何なんだろうと考えていまして……」
伊藤さんは、エグゼクティブコーチングの経験から、ある問いを持ち続けてきたと言います。経営の日々の判断は、常にトレードオフだ、と。

「両方とも正しいんですよ。でもどっちか選ばなきゃいけない。そして、気づかないうちに、自分はいつも同じ方を選んでいる傾向がある」
その傾向を可視化できないか——そのために、伊藤さんがコツコツと作り始めたのが「経営者アセスメント」です。
測定するのは、大きく4つの軸です。
- 意思決定:スピード重視か、慎重さ重視か
- 関係性:自分の意思か、協調性か
- 視座:長期視点か、短期視点か
- 行動特性:速さか、持続性か
これらを40問の設問に落とし込み、回答パターンを統計的に解析(多変量解析)することで、その人の意思決定傾向をポジショニングマップに可視化する——というものです。


「これ、30分で作れます。ChatGPTで質問項目作って、Geminiを使って、AIと壁打ちしながら」
と伊藤さんがさらりと言うと、会場から驚きの声が漏れます。

「今のところ、コーチングしているマネージャー層や経営者の方々にデータを集めています。皆さんにも、ぜひ回答していただけると有難い」
廣器会のメッセンジャーグループにファイルが共有される予定とのこと。ドラッカーはかつて「インテグリティのない組織は潰れる」と言い切りましたが、そのインテグリティを、どう数値化して経営に活かすか——伊藤さんの試みは、そこへの一つの問いかけでもあります。

■ おわりに

「今日の廣器会、ちょっと今までと全然違う感じで進めてきました」
閉会の言葉を述べながら、中村さんは続けます。

「答えを持っている人がここで話すのもいい。でも何も用意しないでこういう話が出てくることも、あるんですよね。まさにこれを、自分の会社の幹部の中でやったら——きっと、結構いい話になるんじゃないかな、と思いました」
知識を教え合う場ではなく、共に問い続ける場。それが廣器会の変わらない姿勢です。
今夜もまた、会場のあちこちで「自分の組織に持ち帰って試したい」という熱量が静かに燃えていました。経営、組織、人間——大人たちが本気で探究する夜は、盛り上がったまま懇親会へと続いていきました。
【注釈】
- 小川さんに関しては以前の廣器会レポートが詳しいです。 ↩︎
- <Vulnerability> 【心理学】「弱さ」や「傷つきやすさ」のこと。単なる欠点ではなく、「自分の弱さを認め、あえてそれを他者にさらけ出す勇気」 ↩︎
- 水野さんは元・Hondaのデザイナーで、今はブランディングの仕事をされています。 ↩︎
***
– 今回のレポートライティングは「蔵人」、 校正編集:水野で担当いたしました –
***
レポーター紹介
坂本 樹志
株式会社コーチビジネス研究所 顧問 CBL認定コーチ 中小企業診断士
広島県出身。大学卒業後、大手化粧品会社に入社。財務、商品企画開発、販売会社代表取締役、新規事業開発、中国上海・北京駐在、独資2社設立し総経理等を歴任。その後CBL認定コーチとなり、エグゼクティブコーチとして活動開始。『カウンセリング&コーチング クイックマスター(同友館)』『格闘するコーチング(かんき出版)』など著書・執筆多数
WEB構成
水野 昌彦
アイデアルブランズLLC 代表 ブランド・デザイナー 中小企業アドバイザー
美大卒業後プリンター・電子機器メーカー、独立デザイン事務所を経て自動車メーカーデザイン部でカーデザインに従事、エンブレムデザイン全般担当を契機としてブランディングに深く関与。ブランド体系構築をリーディング。2021年独立・法人化、代表に就任。「かんがえ方のデザイン」を提唱し中小企業のブランド・デザイン振興を支援している。
撮影
Jin-hitomi
インフラ系会社の購買部門で契約業務の他、経理・総務を歴任。日商簿記2級、ビジネス法務2級
パラレルキャリアで人物写真撮影(イベント、スナップ、スタジオ)、西洋占星術、ダンス(ヒップホップ、ロックダンス)など★魂の煌めきを照らす仕事★で元気とパワーを届けている。






